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November 21, 2004

みんな元気.

舞城 王太郎,「みんな元気.」,新潮社,2004年.

舞城さんは短編もんまいね.

選択肢,と自分で思って自分で胸がぎゅうとなる.私に自分の子供は選べない.夫を選べというなら判る.でも子供は選べない.すべてが私の子供なのだし,その全員を愛しているのだ…. (p.108)
私は言う.「あのね,私ら,ちょっと意地んなってただけだよ,今じゃ.確かにあんたじゃなくっても,家族は別にいいんだもん」 「…じゃあ放っておけば良かったじゃん」 「最初は愛情だもん.途中から意地になっちゃったんだもん」 (p.127)
愛されている. これからいろいろあるだろうし,あるけれど,愛されて起こるいろいろだから,きっと大丈夫.でもそんなふうに言えば,実はすべてがそうなのだ.みんな大丈 夫.みんな元気.元気すぎて困るというのは,愛しすぎて困るというこうとで,私は落下しながら愛のネットに身構え,背中を緊張させながら,今とりあえず別 に困ってない. (p.132)
そういう余裕の中で考えてみると,杉山家で私は未来と可能性をかいま見たような気がしたけれど,でもあれも透明魔神と同じく私の目にだけみせられた架空の 仮定とか,こういう可能性もあるかもねという意味での可能性としての可能性とかそういうのなのかもしれないじゃないか.まだいろいろもっとたくさん選択肢 はあるに違いない.いや,選択肢はもっと作ることができるんだ.まだ選択肢になっていないところからもっと選べるんだ.そうして増やした選択肢の中から私 はもっとよく考えて選べるはずだ.もっとよく考えて選んでいかなくてはならないのだ.植木バサミを振るって人の首をちょきんちょきんと切るような重い決断 をしていかなくてはならないのだ.でも人が人生を生きるというのはそもそもそういうことで,みんなそうやって生きているんだ.平気で,元気に,気づかず に.透明魔神をたくさん生みながら,それと対決しながら. (p.132)

Posted by ysk5 at November 21, 2004 05:18 AM