« たのしい読書 | Main | Winter Breakを後3日に控えた私の1日 »
December 18, 2004
火星ダーク・バラード
上田 早夕里,「火星ダーク・バラード」,角川春樹事務所,2003年.
メッタ斬り関連作品.
第4回小松左京賞受賞作.
エンターテインメント正統派ハードボイルドSF作品というラベルづけを試みてみる.
おいしゅうございました.
オリヴィアは,ソファから立ち上がった.グレアムを見下ろして断じた.「人類に進化なんてものはない.ただ,適応があるだけよ.環境への過剰な適応がね」 (p.22)
「俺は,あんたが考えているような理由でPDになったんじゃない.俺は,今では昔の自分の行為を恥じているし,だからこそPDになったんだ.人類の精神性 を変化させるだと?人間は不完全な生き物だ.その不完全な存在が,完全なものなど作り出せるものか.プログレッシヴは,完璧な人類などではない.欠点だら けの,俺たちと同じ,愛すべき存在だ.アデリーンが,その証拠だ」 (p.241)
「そしていつかは,私の力を,暴力とは違う形で使う方法を見つけ出そう.私はそうやって,少しずつ自分の荷を降ろしてゆく.自分が犯してきた罪を,少しずつ償ってゆくのよ.一生かけて,そうやって,本当の意味で少しずつ自由になってゆこう---」(p.388)そしてあとがきが素敵. やはり思考実験(シミュレーション)としてのSFの役割は大切なのだと.
でも,だからといって,未来を空想することに意味はないのでしょうか.たとえSF小説といえども,現実の延長線上でしかモノを書 いてはいけないのでしょうか.そんなことはないと思うのです.小説の中で扱われる物語は,人間の思考が抽象化されたもののひとつに過ぎません.大切なのは 細部が実現可能かということだけではなく,その背後に潜む,人類の宇宙や未知の領域への進出に対する,ほろ苦い希望と苦悩の足跡を描き出すことにあると思 うのです.(p.391)
Posted by ysk5 at December 18, 2004 11:59 PM