January 02, 2005
哲学者の密室
大作で力作.
とにかくいろいろと詰まっている.思想対決,恋愛,探偵…….
ミステリという体裁をとりつつ,いろいろと展開されるタイプは僕好みです.
おいしゅうございました.
# S上くんは要旨とか本論とか書いてないで早く読むように.
どの切り口からいくか悩んだけど,恋愛のほうでいってみよう.
*・モガールなひとの記述メモ.
わたしはわたしなのだ.自分の選択から,喜びを引きだせるのはわたしであり,苦痛を強いられるのもまた,わたしである.ほかのだれでもない,ナディア・モガールなのだ.それが,人生を生きるということの意味ではないだろうか.
(pp.357)
多数の可能性を有機的に連関させ,それに生気に満ちた色どりと真実の香気のようなものを与える可能性の中心を破壊され,瑣末な可能性に心をわずらわせるしかないのよな生存は,ほとんど地獄ではないだろうか.
(pp.677)
だが愛は,愛を否定するものさえを肯定して,しかも愛でありうる.愛する者に裏切られようとも,愛は失われることがない.ありふれた男や女に,それは強固
な信仰をもつ宗教者にも匹敵するほどの肯定する力,神秘的な力を与えうるものだ.愛の体験には,そのような神秘が隠されているのだと,あらためてモガール
は思った.
(pp.921)
ひとが不安になるのは,死の可能性においてではない.おのれの中心的な存在可能性が不可能になるとき,そうなりそうなとき,そうなるかもしれないと危惧す
るとき,人は不安になる.世界が崩れてしまいそうな,窒息しそうに胸苦しい,暗澹とした気分に襲われるのだ.(pp.1120)
ダッソー家の事件を経験して,わたしは無数の可能性の束から,本当に大切なものを探りあてることができた.死のそれの対極にある,愛の存在可能性.そう
だ,わたしはもう迷わない.わたしがわたしであるかぎり,最後まで愛の可能性を生きるのだ,ひたすらに…….(pp.1160)
Posted by ysk5 at January 2, 2005 12:25 PM