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April 05, 2006

Management Scienceにおける介入戦略の展開

なんか最近読んだ文献を僕の研究関心とは直接関係ない観点から整理してみるとそれはそれで有用な気がしたので,OLTAKAあたりでテキトーに発表するためのドラフトのドラフトぐらいな気持ちでまとめてみたら,割と長くなってしまった.しかしまあ,この手の日本語リソースは絶望的に少ないな.ズなORerの陰謀か!


概要


1980年代以降のManagement Scienceにおける介入戦略の展開について,(1)Jacksonによる介入戦略の4分類,(2a)JacksonによるTSI,(2b)MingersによるMulti-Methodology,(2c)Synthesis of Methodologiesの4つについて概説し,これらの展開を示す.


はじめに


はじめに本稿における用語の定義を明らかにする.本稿ではmethodologyはツールやテクニックからなるある種のシステム的構造体を意味する.ツールやテクニックは,決められた手順によってそれがなされれば,期待された結果を得ることができる方法を意味する.介入戦略は企業や組織への介入において方法論をどのように利用するのか,ある種の態度・ポリシーを意味する.


Jacksonによる介入戦略の4分類[1]


Systems Analysis,Systems Engineering,Operational Research (not Operations Research)は1970年代から1980年代にかけて,経営におけるソフトな問題状況に対しての問題解決能力を疑問視され,批判された.Jacksonはこれらの方法論が弱みとして,(1)現実の多様な認識を取り扱えない,(2)複雑性の高い事象を取り扱えない,(3)クライアントの意向に影響され問題への解に対して保守的なバイアスがかかる,の3つを挙げている.

またJacksonは(1)に対してSoft Systems Methodologyを代表とするSoft Systems Thinking,(2)に対してManagement Cybernetics (Organizational Cybernetics),(3)にはCritical Management Scienceが伝統的なManagement Scienceの方法論群の弱みを克服するものとして,Modern Management Scienceの方法論と位置づけた.

Jacksonは更にこれらの方法論群を擁するManagement Scienceの発展戦略として(a)Isolationist,(b)Imperialist,(c)Pragmatist,(d)Pluralistの4つに分類している.本稿ではこの発展戦略を介入戦略の表現として解釈する.


この4分類についてJacksonは望ましい発展戦略はPluralistであるとし,他の3つの戦略に対しての批判を加えた上で,現在のTSI(Total Systems Intervention)[2,3]の基礎となるSystem of Systems Methodologiesを示している.

System of Systems Methodologiesは問題状況(システム)の特性を明らかにして,その特性のタイプに対して適したManagement ScienceのMethodologyをそれぞれ配置することにより,Systems Methodologiesのシステム化(構造化)を計るものである.1987年のJacksonの問題状況(システム)の特性分類は複雑さの軸と同意の程度の軸の2軸から表現される.複雑さの軸は対象とするシステムの複雑さの程度を表し,機械的(mechanical)と複雑(systemic)の2つに分類される.同意の程度の軸は問題状況における関与者の問題認識や権力関係を表し,統一的(unitary)と多元的(pluralist)と威圧的(coersive)の3つに分類される.

このように2*3のマトリクスとして分類されたシステム特性のタイプのそれぞれに対して,既存のMethodologyをその適性に応じて配置することで,現在の方法論開発の評価(どのような問題状況にManagement Scienceの方法論が対応可能であるか)を把握し,今後の方法論開発の指針をえることができるようになった(どのような問題状況にManagement Scienceの方法論が対応出来ていないか).

System of Systems Methodology及び,この動機となるPluralistの考え方は学術的及び理論的関心からは今日のManagement Scienceの研究者の共通意識として共有されていると考えてよい.


Post-Modern Management Science: 介入戦略の3タイプ


前節の共通意識から今日のManagement Scienceの介入戦略は開発されてきた.この試みの例として(1)JacksonによるTotal Systems Intervention,(2)MingersによるMulti-Methodology,(3)Synthesis of Methodologiesの3つを概説する.


JacksonによるTSI[2,3]

Jacksonは前節のSystem of Systems Methodologiesによる問題状況とそれに適した方法論の組み合わせから,組織や企業への介入戦略は(1)現状把握(問題状況の特性の把握),(2)適当な方法論の選択,(3)介入による問題状況の変化の3ステップからなり,これらのステップをサイクルとして繰り返すことにより,問題状況の改善を目指すTotal Systems Intervention(TSI)を提示した.

Jacksonの功績はSystem of Systems Methodologies及びこの動機となるPluralistの考え方をコア概念として,その実現としてTSIを問題状況の改善を実現する介入戦略にまとめたことにある.


MingersによるMulti-Methodology[4]

JacksonのTSIは前提として問題状況の特性の把握ができるとしている.しかしながら,TSIに対しては,問題状況の特性の把握自体がすでになんらかのManagement ScienceのMethodologyを利用せざるをえないのではないかという批判がなされた.すなわち現実には介入をスタートするためには“あらかじめ”なんらかのMethodologyによって,現状を把握することになるが,そのMethodologyはどうやって選択されるのかという問題が存在しているという批判が提起された.

このような流れの中,MingersはManagement ScienceのMethodologyで用いられる各種のツールやテクニック(方法)を一旦Methodologyそれ自身からは切り離して,その方法のMethodologyが利用される文脈における役割に注目し,問題状況の改善において,その問題状況でどのような役割の方法が適当かを考えて,Methodology群から適当な方法を選択し介入を行うMulti-Methodologyを提示した.

Mingersは経験的にうまく機能する(問題状況を改善しうる)Methodology群の方法の組み合わせを,介入の進捗状況に対応させて数パターン明らかにした.これにより上述のTSIの問題点を回避した上で,問題状況によってある意味で既存のMethodology群から新しくその問題状況に対して適当な介入Methodologyを方法の組み合わせから生成するという,新しい介入戦略を示した点に理論的意義がある.


Synthesis of Methodologies

Mingersの様な方法の組み合わせによるアプローチに対して,LaneやSchwaningerは適用する問題状況を限定した上で,すなわちそのMethodologyが有効である範囲を明示した上で,既存のManagement ScienceのMethodologyを合成して,新しいMethodologyを提案している[5-7].

これはある問題状況についてあるMethodologyがそれだけでは対応可能でないときに,それを補うようなMethodologyと合成することで,その問題状況に対応可能なMethodologyを生成する介入戦略である.LaneはSoft Systems Methodology (SSM)とSystem Dynamics,SchwaningerはManagement Cybernetics (Organizational Cybernetics)とSystem Dynamicsを合成することで,新たなMethodologyと呼びうるものを創り出した.


おわりに


本稿ではManagement Scienceにおける介入戦略の展開を概説してきた.この展開をまとめたものを図1として示す.


図1:Management Scienceにおける介入戦略の展開


References


[1] Jackson, M.C. (1987), "Present Positions and Future Prospects in Management Science", OMEGA The International Journal of Management Science, Vol.15, No.6, pp.455-466.
[2] Jackson, M.C. (2000), Systems Approaches to Management, Kluwer Academic/Plenum.
[3] Jackson, M.C. (2003), Systems Thinking: Creative Holism for Managers, John Wiley & Sons.
[4] Mingers, J. (2002), "Multimethodology - Mixing and Matching Methods", in Rosenhead, J. & Mingers, J. (ed.) Rational Analysis for a Problematic World Revisited, John Wiley & Sons, pp.289-309.
[5] Lane, D.C. and Oliva, R. (1998), "The greater whole: Towards a synthesis of system dynamics and soft systems methodology", European Journal of Operational Research, Vol.107, pp.214-235.
[6] Schwaninger, M. (2004), "Methodologies in Conflict: Achieving Synergies Between System Dynamics and Organizational Cybernetics", Systems Research and Behavioral Science, Vol.21, No.4, pp.411-431.
[7] Schwaninger, M., Rios, J.P., and Ambroz, K. (2004), "System Dynamics and Cybernetics: A Necessary Synergy", International System Dynamics Conference, Oxford, July.

Posted by ysk5 at April 5, 2006 11:46 PM

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