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August 30, 2004
逆システム学
金子 勝 and 児玉 龍彦,「逆システム学」,岩波書店,2004年.
センセが書評をお書きになるとのことなので,それまで感想は保留しておこう.
が,以下のamazonのレビューとほぼ同じ感じ.
金子さんの書いておられることは、鋭い点もありますが、ゲームの理論等、現在の経済理論が現実の経済を分析できないとするなら、
それらを超える理論を提示できるのだろうか、と言う疑問がわきました。他の著作についても言えますが、現状に問題があることは分かるにしても、そこから先
が見えてこない。fromhttp://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4004308755/
なので面白いところだけをメモと.
■逆システム学とは
その意味で,ある種の単純化された人間観や社会観を前提にして一つのシステムを想定する安直な方法を,筆者たちは拒絶している.つまり,筆者たちはシステ
ム全体を明らかにするには,依然として「不可知」な領域が存在することを認める.そこで「群盲象をなでる」ということわざのように,さまざまな実験や,経
済政策の結果から,いかなる制御系が働いているのかを明らかにしようとする考え方をとるのが,逆システム学の方法なのである.
(p.10-11)
■徹底的なまでの青木さん批判が僕的に面白かった
しかし現実には,青木氏が「強さ」を説明してきた日本企業モデルの「評判」は地に落ちてしまったにもかかわらず,なおも自らのモデルが正しいとするには,
青木氏は制度的な多元性が必要であるという立場をとらなければならない.だが,その立場を貫くには,競争淘汰を基本とする進化ゲームは必ずしも都合の良い
結論を導かない.そこで,木村資生の「進化中立性」などが突然持ち出され,その理論的文脈を無視して,突然変異が進化中立的に現れるのは,その国の制度に
は補完性があるからだという説明に飛躍してしまう.それによって制度の多元性(つまり日本モデルの存立根拠)を正当化しようとする.そして,その制度的補
完性に始まって,共同体的側面を含めた制度への「重複した埋め込み」までが説明されてゆく.
一見してわかるように,青木氏の主張は,本来,理論的に対立するはずのフィッシャーの遺伝的固定説とライトの遺伝的不動説を,ご都合主義的につぎはぎし
た,きわめて怪しげな議論に帰結してしまっている(p.95)
これまで見てきたように,青木氏の日本企業モデルでは,契約関係にあるプレーヤーの二者間に生ずる「情報費用」だけが問題なのであって,センサー→シグナ
ル伝達系→制御系というフィードバックに合わせて情報の流れがきちんと定義されていない.つまり先に指摘したように,調節制御の中で,どのような範囲の情
報が流れ,その情報の流れに対して何がセンサーであり制御系であるのか,そして,そのおのおのにはどのような範囲の権限(パワー)が与えられているのかが
きちんと特定されていない.こうした問題が生ずるのは,情報の経済学の理論的欠陥に由来する.情報の経済学では,前述したように企業を単なる個別の契約・
交渉関係に解消し,プレーヤー間の「情報の非対称」をコストととらえて,それを処理する企業組織のあり方を問題にするだけだからである.そのために,メイ
ンバンクや日本企業の失敗について,多重フィードバックの中のセンサー→シグナル伝達系→制御系のどこがこわれているのか明確にできないために,その失敗
の原因を分析できなくなってしまうのだ.
(p.116)
■この主張はそれっぽいけど,論理に飛躍が見られると思うですよ
ところが,最近マクロ経済学者に広まっているインフレターゲット論に見られるように,数値を優先させる考え方が一人歩きを始めている.しかし,インフレ目
標値を決めて,中央銀行に目標値を達成するまで国債買い切りオペをさせるインフレターゲット論も,どこで制御系が働いていないのかを確かめずに,数値目標
だけを一人歩きさせてゆくという意味で,ただ血圧を低下させるような治療法と同じだと考えて良いだろう.医学も経済学も,治療という介入にあたっては,シ
ステムの安全を認識することが鍵となる.
(p.154)
■システム論やっている人間からすると”ふーん”ってな感じではあるのですが
こうした古いパラダイムによる不毛な対立に対して,生物学においても経済学においても,逆システム学は,「要素」のみならず,「要素間の関係」を実証的に厳密に研究していくことを求める.それは「要素間の関係」が変化し,進化するという認識からである.
(p.237)
Posted by ysk5 at August 30, 2004 12:21 AM