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September 28, 2004

博士の愛した数式

小川洋子,「博士の愛した数式」,新潮社,2003年.
汁まみれになった.最近で一番感動した一冊.
時間があれば小川洋子を開拓することにする.


その時,生まれて初めて経験する,ある不思議な瞬間が訪れた.無惨に踏み荒らされた砂漠に,一陣の風が吹き抜け,目の前に一本の真っさらな道が現われた.
道の先には光がともり,私を導いていた.その中へ踏み込み,身体を浸してみないではいられない気持にさせる光だった.今自分は,閃きという名の祝福を受け
ているのだと分かった.
(p.75)

「実生活の役に立たないからこそ,数学の秩序は美しいのだ」
と,博士が言っていたのを思い出す.
「素数の性質が明らかになったとしても,生活が便利になるわけでも,お金が儲かるわけでもない.もちろんいくら世界に背を向けようと,結果的に数学の発見
が現実に応用される場合はいくらでもあるだろう.楕円の研究は惑星の軌道となり,非ユークリッド幾何学はアインシュタインによって宇宙の形を提示した.素
数でさえ,暗号の基本となって戦争の片棒を担いでいる.醜いことだ.しかしそれは数学の目的ではない.真実を見出すことのみが目的なのだ」
博士は真実,という言葉を素数と同じくらい重要視した.
(p.159)

Posted by ysk5 at September 28, 2004 03:18 PM