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November 07, 2004

暗闇の中で子供 The Childish Darkness

舞城 王太郎,「暗闇の中で子供 The Childish Darkness」,講談社,2001年.

次は舞城王太郎を攻めます.

物語について.
かなり本文中で強調しているので,代表的記述をメモしておく.

ある種の真実は,嘘でしか語れないのだ. 本物の作家にはこれは自明のはずだ.ドストエフスキーやトルストイやトーマス・マンやプルーストみたいな大長編を書く人間だってチェーホフやカーヴァーや チーヴァーみたいなほとんど短編しか書かない人間だって,あるいはカフカみたいなまともに作品を仕上げたことのない人間だって,本物の作家なら皆これを 知っている.ムチャクチャ本当のこと,大事なこと,深い真相めいたことに限って,そのままを言葉にしてもどうしてもその通りに聞こえないのだ.そこでは嘘 をつかないと,本当らしさが生まれてこないのだ.涙を流してうめいて喚いて鼻水まで垂らしても悲しみ足りない深い悲しみ.素っ裸になって飛び上がって 「やっほー」なんて喜色満面叫んでみても喜び足りない大きな喜び.そういうことが現実世界に多すぎると感じないだろうか?そう感じたことがないならそれは 物語なんて必要のない人間なんだろうが,物語の必要がない人間なんてどこにいる?まあそんなことはともかく,そういう正攻法では表現できない何がしかの手 ごわい物事を,物語なら(うまくすれば)過不足なく伝えることができるのだ.言いたい真実を嘘の言葉で語り,そんな作り物をもってして涙以上に泣き/笑い 以上に楽しみ/痛み以上に苦しむことのできるもの,それが物語だ. (p.34-35)
物語というものはそういうものなのだ.誰かの熱意が空にいる誰かに通じたりしてもいいのだ.それが嘘であってもいいのだ.何故なら,誰かの懸命さは必ず他の誰かに見られているものだということは,物語が伝えるべき正しい真実だからだ.(p.112)

Posted by ysk5 at November 7, 2004 12:11 PM