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January 24, 2005

研究室間の齟齬について(1)

時間があるのでケースを書いてみる.

まずはじめに.
対象としている研究は学部の卒業研究としてはレベルの高いものであり,その研究自体を批判する目的は全くないです.
ここでは研究室間での齟齬,つまり行き違いが,当事者間の意図せざる結果として生じることに焦点をあてています.

では.
imseな学科の2004年の要旨のpp.,43-44の研究についてです.
研究の発表者(Y研)とセンセ(ぼくの)との間の齟齬です.
あと,すべては伝聞なので,事実関係は誤りがある可能性があります.

<概要>
発表中,研究の背景について,組織学習の説明を発表者がしたことに対して,センセがそのような背景の説明は不適当であるというアドバイスをなさいました.
が,その発表者はそのアドバイスについて不満があるようです.

<詳細>
この研究では施設レイアウトの問題を扱っています.
研究の目的は効率的なレイアウト設計技法です.
そこでエージェントベースアプローチによる組織学習の研究から生まれたモデルである,組織学習指向型分類子システム(OCS)を利用しています.

このOCSは組織論の研究の文脈からのモデルであるのですが,その本来的な意味づけとは少々違う形で各種設計の場面においても適用されています.その一つが上のはなしです.

センセは,OCSをご存じで,その文脈についてもご理解されておられるので,OCSを上のような設計技法として用いるとき,それは組織学習というよりも,1つの単なるアルゴリズムとしての意味合いが強いとお思いのようです.
# ちなみにぼくもそう思います

そう考えたとき,背景に組織学習の説明をすることは,いかにもその研究内容からして不適当であり,背景には施設レイアウト手法の従来手法の流れや比較を書くべきではないか,とアドバイスをされたみたいです.

それに対して発表者は,センセのお話によると,”いや,これは組織学習ですからいいんです”というような趣旨の発言で強弁されたらしいです.
で,センセはニガワラと.
また,関係者から,その発表に同席されたYセンセも,センセのご発言に対してご不満であるとの情報をいただきました.

さて,このような事態がなぜ起きるのかについて考えていきたいと思います.

<検証>
まず,センセのアドバイスの内容がおかしいのかについてです.

先に結論を言うと,おかしくありません,正しいと思います.
それはたとえば背景部分で

経験を有効利用するためにはその経験から得られる価値基準が妥当性を失っている場合は新しい価値基準に置き換えるという組織学習の概念が重要となる.

という記述がありますが,これはおかしいです.
#
この研究をB4のひとは優秀論文発表の際に聞いたらしいのですが,”組織学習使っている研究があって面白かったです”,ってな感想ばかりでしたが,この辺
の話をmajorにしているのに,このおかしさに気づかないのは悲しいです.
価値基準を変更するのは,いわゆる組織学習の研究において高次学習とされる学習の種類であって,価値基準の変更が組織学習ではありません.OCSでは
double-loop learningにあたります.
さらに具体的にいうならclassifier
system自体が価値基準の変更を行う学習をするアルゴリズムで,この実装にはagentがmultiでありorganizationを構成している必
要はありません(たとえば強化学習とか).
このように考えると,上の引用文は2つの点でおかしいです.
1.価値基準を変更するのは高次学習であること
2.経験を有効するためには組織学習だけが方法ではないこと
さらに,ぼくの知っている範囲では,この辺のレイアウト技法はほとんどのものが,経験を有効利用して価値基準を変更しながら,よりよい近似解を探っていく
というアプローチをとっているのだと思います(たとえばGAとかSAとかEPとか).
その辺の話があるので,センセはそのような背景の説明は不適当であるというアドバイスをなさったのだと思います.
ということで,センセがされたアドバイスの内容は正しいであろうと思います.
さて,問題はなぜ発表者が強弁という反応にでたかについてです.
考えるに,2つの可能性があると思います.
1.ディフェンスすることが目的で,なにがなんでも自分の正当性を主張するスタンスで,発表に挑んだ
2.自分が組織学習について理解していると考えていて,一方のセンセは理解していないと考えた
1.の場合にはいまだに不満に思う必要はありませんし,Yセンセも不満にお考えということについて説明ができません.
よって,2.であるとして考えていきます.
2.について,その内容自体は明らかに間違いであることは上でも説明しましたが,それは発表者の内部モデルを問題にいているときには正誤は関係ないので無
視します.
ぼくは,この2.の発想こそが,研究室間の齟齬の原因のひとつであると考えています.
それはさげすみとラベリングであると,先日も書きましたが,これが研究室間での理解を妨げているのではないのか,というのがいまの考えです.
つまり,俺の研究(考え)にお前なんかは口を出すな(さげすみ)ということと,システム論の教授は”システム屋”なんだからレイアウトのこと(もしくは組
織学習のこと)はわからないだろ,ということです.
ただ,この2つは,どこにいっても存在していて,今回のケースが特別というわけではないと思います.
特にimseな学科は研究室の幅・種類が多様であり,1つ1つの研究室に大きな違いがあるので,他の学科よりもこの2つが非常に目立ちます.
でも,明らかに,この状況は問題であると,ぼくは考えます.
# imse自体がある意味問題解決のためのアプローチ群を形成しているのだから,healthyな関係でないと,その強みをいかしきれないと思います
じゃあどうすればいいの?という問いに対する現在のぼくの回答は,先日示したSystem of IMSE
Laboratoriesのような枠組みの提示であり,inter-laboratoryなおつきあいを積極的にやっていきましょうということです.
あと,卒業研究発表の場というのは,後になって思うと,非常に貴重な場であったと感じました.それはハイレベルな研究者でありながら,当該研究にダイレク
トにかかわっていない教授の御意見をいただけるという点です.学会とかは当該研究関係者ばっかりになるので,卒業研究発表のような新鮮な意見をきくことは
なかなか難しいです.当時は発表時にご指導いただいた教授の方たちに”はぁ?なにいってんだ?”と感じましたが,いま思えば非常に的を射た,すばらしいア
ドバイスをいただいていたのだと思っています.その意味で,個々人においてはオープンで謙虚な姿勢が必要であると思います.
以上,研究室間の齟齬について,1つのケースを例としての考察を行ってみました.
# どうも酒を飲みながらテキストを書くと,だめです.

Posted by ysk5 at January 24, 2005 12:14 AM