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July 03, 2005
古川(1991)
古川 久敬.”構造こわしと集団・個人の学習”.組織科学,Vol.25,No.1,pp.10-21,1991.
学習のinertiaをどうやって克服するか?という問題に対して,ソフト構造という概念とその構造を壊すための要因について示している.
まず学習概念について明らかにしている.ここでは,報酬によって制御される反復的・永続的な能力向上・コンテクスト変化のための行動であるとまとめられる.
本論文における後の議論を明確にするために,心理学において個人の「学習」がどのような意味を持って用いられてきたかについて整理しておこう.
第1に,学習とは,それまで身につけていなかった知識,技術,行動,さらには状況認知や原因帰属のスタイル(物事の生起原因を何に帰属させるか.これの違いによって,その後に取られる行動もはっきりと違ってくる)などの習得をいう.第2に,これらの習得は,周囲の他者からのフィードバック情報による強化や自己強化を通して,反復されながらなされる.このプロセスを制御するのが報酬である(これについては後述する).
そして第3に,学習は安定的,永続的な変化をいう.知識,技術,行動,あるいは状況認知や原因帰属のスタイルなどは,それらがくりかえし安定的に出現するのでなければ学習されたとはみなさない.ある時にたまたま1回だけの実行というのでは,学習が成立しているとはみない.もちろん,一度学習されたとしても,恒久的に不変というわけではない.その後において新たなものが学習されれば,それ以前に学習されたものは変容したり,置換されたりする.
古川(1991) pp.10
次に,報酬を2つに分類している.
(1) 正報酬の獲得による学習:そのひとつは,正報酬の獲得による学習である.ある事柄に着手し,工夫する.たとえそれがうまく行かないときでも,その代替を試みるなど,積極的に問題解決に取り組む.このような中から,ある試みが成功を収めるようになり,それによって,個人や集団は正の報酬(成功や好業績に伴う満足,周りからの承認や賞賛など)を獲得する.このような学習を「積極サイクルの学習」と名づけることにする.いわゆる加点主義の報奨システムは,この積極サイクルの学習を促進する.
古川(1991) pp.11
ひとつは正報酬で,もう一つは負報酬.
(2) 負報酬の回避による学習:他のひとつは,負報酬の回避による学習である.周囲の人々から与えられる負の報酬(失敗に伴う批判,低業績への叱責,あるいは威嚇や脅しなど)をひたすら避けるために,ごく無難な行動を選択する.積極的に何かを獲得するというよりは,苦痛や不快を避けるのが主なので,他者に依存したり,”他者の顔色をうかがう”主体性のない消極姿勢に終始する.このような学習を「消極サイクルの学習」と呼ぶことにする.いわゆる減点主義の報奨システムは,この消極サイクルの学習を促進させることになるであろう.
古川(1991) pp.11
次にソフト構造という概念を示している.
(2) ソフト構造:組織内の構造全体を,海に浮かぶ氷山に例えるならば,たえず海面下に存在し,目にすることができない.したがって,通常はほとんど意識されない構造もある.具体的にいえば,暗黙の信じ込みやルール,タブーなどが該当する.あるいはまた価値観や認知スタイル,原因帰属スタイル,役割期待,対人関係,そして勢力関係などが含まれる.これらが組織や職場内に横たわり,規範や風土,あるいは文化などとして根づいている.古川(1991) pp.13
ソフト構造は負報酬のサイクルによって獲得されるとしていて,これを打ち壊す要因として以下の3つをあげている.
- フレイミングの移動と拡張
- 行動先行
- 自己知覚を高めさせる段階的介入
ソフト構造は,組織内の各集団が標準化機能,すなわち成員の考え方や価値観を揃え,集団活動にあたっての足並みを整えようとする機能を持っていることから発生してくる.
古川(1991) pp.13
Posted by ysk5 at July 3, 2005 10:55 AM
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