« ウェブログの心理学 | Main | さいきん感じていること »
July 09, 2005
シリウスの道
作者が食道癌にかかっていることを知っていて読んでいるのでバイアスかかりまくりなのを最初に書いておく.
だとしても.この作品は藤原伊織であるし,藤原伊織のベストであり,集大成であるような気がする.
なによりも,そのきれいな日本語,境界の外にいる主人公,雪が降るに代表されるような美人のお相手(やや都合が良すぎる),正義と悪のあいまいさ,もしくはその存在自体へのアンチテーゼと観念としての悪への対決,そして印象的で継続的で物語のなかでの時間は経過していくことを暗示させるような結末.
まさに,藤原伊織であるし,これこそが藤原伊織であろう.
内容をちょっとまとめると.
3人の幼なじみは,あまりにも鮮烈で強烈な体験をともにすることで,20年以上たったいまも,1枚の絵と2つの星,シリウスに捕らわれ囚われ,時が止まっている.
「あのころがもどってきたらいいのに.どんなに貧しくても,あの時代にみんながもどれたらいいのに」
pp.466
シリウスという星の光は永遠に変わらない.その光とはおそらく3人の楽しかったいつかの思い出であろう.
だがその光のために動けなくなるかもしれない.辰村は頭上を見あげることなく,ふたたび暗い路面を歩きはじめた.
pp.510
人間の時は淡々と,平等に順番に流れるのではなく,ある1時点に止まったり,あるいは何度も同じ時点をぐるぐると繰り返す,そういうことがあるのだろう.
という真面目なはなしっぽいなかで,途中で
「今週末にでもまたふたりで飲みにいきませんか」
「また私の膝枕で眠りたいわけ?」
「そう.あれはすごく寝心地がよかった」
「でも,よだれでスカートに染みができちゃうのはどうだろう」
「最初からスカートを脱がせていれば,その心配はないでしょう」
彼女はドアのノブに手をかけたところだった.「うん,それはわるくない考えかもしれない」といった.そして無邪気な子供の表情でふりかえった.「非常にいいアイデアかもしれない」
pp.305
というようなのをはさめるところがすごい.そして内容がアレなのに日本語がすばらしいのが,またすごい.
次をまっています.
Posted by ysk5 at July 9, 2005 11:58 PM
Trackback Pings
TrackBack URL for this entry:
http://ysk5.s58.xrea.com/mt/mt-tb.cgi/686